崩れゆく帝王の日々―外科医の悲劇

崩れゆく帝王の日々―外科医の悲劇 の詳細

同じ著者による医学史ドキュメンタリーシリーズ「近代医学のあけぼの―外科医の世紀」、「外科医の帝国 現代外科のいしずえ〈上〉」「外科医の帝国 現代外科のいしずえ〈下〉」などとは別の、その番外・余話といった作品になっています。舞台は戦後の東西ドイツ。加齢と病気（が原因の精神障害）により、患者への真っ当な治療行為が不可能になっているにもかかわらず現場に立ち続けようとする老医師、フェルディナント・ザウエルブルッフと、彼をとりまく様々な人々の物語です。彼がそこらの町医者にすぎなければ、同僚や患者から相手にされなくなるだけだったでしょうが、ザウエルブルッフは伝説的な名外科医でした。そのことが彼に、自覚なき医療過誤を続けさせ、過去の名誉も危険に晒していきます(彼の若い頃の活躍の一端は「現代外科のいしずえ〈上〉」の開胸手術の章に出てきます)。前述のシリーズほどの濃い読み応えには及びませんが、判断力が欠如しながらも「医師としての自分」であり続けようとする彼の姿は最初は滑稽に、やがて切なく感じてしまいます。